2011年12月02日

『モダンタイムス』(☆☆☆☆☆:小説おすすめ度)

『モダンタイムス』は伊坂幸太郎が2008年に発売した小説である。『ゴールデンスランバー』の制作時期とほぼ同時期に『モーニング』で連載された作品である。またこの作品は2005年に発売された『魔王』の続編として50年後を舞台とし、作品中に魔王のキャラクターの安藤潤也などが出てくる。キャッチフレーズは「検索から、監視が始まる。」

<あらすじ>
「勇気はあるか?」29歳の会社員となった私の前で、見知らぬ男がそう言ってきた。「実家に」と言いかけたが、言葉を止めた...。拷問を受けた翌日、私は失踪した五反田正臣の代わりに「ゴッシュ」という会社から依頼されたシステム改良の仕事を引き継ぐことになる。

<感想>
『ゴールデンスランバー』と並んで伊坂作品が新しい段階に入ったことを示すような作品であるように感じました。これまでも『アヒルと鴨のコインロッカー』の犬殺しや『重力ピエロ』の連続レイプ犯など伊坂作品にはどうしようもない悪が度々登場してきましたが、本作ではこれらこれまで描いてきた、結果として生み出される末端の悪ではなく、それらを生み出しうる仕組みそのもの、世界そのものに焦点を当てています。それはとんでもない悪を生み出しうる仕組みに私たち自身も加担しうる、もしくは既にそうなってしまっているということも必然的に描き出すことになり、それが可能であれば、真に私たちに迫ってくるメッセージをもった作品足り得るという至極真っ当な作風の変化であると思います。説教くさいといえばそうなのですが、エンタテインメントとしての展開の妙やキャラクター像はこれまでと変わらず高いクオリティを保っているので、単純に読み物としても面白いです。

〜『モダンタイムス』、伊坂幸太郎〜
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2010年09月04日

『チルドレン』(☆☆☆☆:小説おすすめ度)

『チルドレン』は伊坂幸太郎による日本の小説。第56回日本推理作家協会賞短編部門候補作。作者が「短編集のふりをした長編小説」と述べているように、収録された全作品に陣内という男が登場する、連作短編である。作品ごとに語り手が異なっている。また、「バンク」「レトリーバー」「イン」ではほぼ同じ時代が描かれており、「チルドレン」「チルドレンII」では、前述の3作品より後の時代が描かれている。

<あらすじ>
「俺たちは奇跡を起こすんだ」独自の正義感を持ち、いつも周囲を自分のペースに引き込むがなぜか憎めない男、陣内。彼を中心にして起こる不思議な事件の数々――。何気ない日常に起こった5つの物語が、一つになったとき、予想もしない奇跡が降り注ぐ。

<感想>
『日常の謎』的な作品5本が収められた連作短編集です。中心となる人物の言動や性格、やや気取った雰囲気など、登場人物や世界観がほかのそれらより丁寧に描かれていて、ただの『日常の謎』でおわっていないのが楽しい所です。また、連作なのですが順に繋がっているのではなく、それぞれの作品の時間が前後しているのが特徴的です。とはいうものの、繋がりをややこしく感じることはなく、読んでいるうちに自然と気づき「ニヤリ」とさせられます。ほかにも、全編をとおして絡んでくる父と子の関係や、盲目の成年をめぐる少しチクリとさせられるやり取りと、楽しいだけではない物語としての読みごたえも十分。短編ということもあって読みやすく、おすすめの1冊です。

〜『チルドレン』、伊坂幸太郎〜
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2010年08月04日

『砂漠』(☆☆☆☆☆:小説おすすめ度)

麻雀、合コン、バイトetc……普通のキャンパスライフを送りながら、「その気になれば俺たちだって、何かできるんじゃないか」と考え、もがく5人の学生たち。社会という「砂漠」に巣立つ前の「オアシス」で、あっという間に過ぎゆく日々を送る若者群像を活写。日本全国の伊坂ファン待望、1年半ぶりの書き下ろし長編青春小説。

<あらすじ>
入学した大学で出会った5人の男女。ボウリング、合コン、麻雀、通り魔犯との遭遇、捨てられた犬の救出、超能力対決…。共に経験した出来事や事件が、互いの絆を深め、それぞれ成長させてゆく。自らの未熟さに悩み、過剰さを持て余し、それでも何かを求めて手探りで先へ進もうとする青春時代。二度とない季節の光と闇をパンクロックのビートにのせて描く、爽快感溢れる長編小説。

<感想>
派手な事件やどんでん返しはありませんが、相変わらずのキャラクター造形は見事ですし(人によっては薄いと感じるかもしれませんが、それこそ現代感を現しています)、台詞も面白いです。大学生活を描いている青春小説にしては学校関係のイベントはほとんどありませんし、若者たちの身の回りの難事件をいろいろな苦難をこえて乗り越えてくいといった、ある種爽快感がある伊坂作品にしてはかなりポジティブな内容でした。ただタイトルの「砂漠」という意味を考えたときには、相変わらずの作者のシニカルな一面を見た気がしました。最後にちょっとした仕掛けがあるので、楽しみに読み進んでくださいね。

〜『砂漠』、伊坂幸太郎〜
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2010年07月07日

『フィッシュストーリー』(☆☆☆:小説おすすめ度)

『フィッシュストーリー』(a story)は、伊坂幸太郎による日本の小説作品、短編集。『小説新潮』に連載されていた。

<あらすじ>
最後のレコーディングに臨んだ、売れないロックバンド。「いい曲なんだよ。届けよ、誰かに」テープに記録された言葉は、未来に届いて世界を救う。時空をまたいでリンクした出来事が、胸のすくエンディングへと一閃に向かう瞠目の表題作ほか、伊坂ワールドの人気者・黒澤が大活躍の「サクリファイス」「ポテチ」など、変幻自在の筆致で繰り出される中篇四連打。爽快感溢れる作品集。

<感想>
伊坂幸太郎13冊目の本書は、デビュー直後に書いた短編から、今回書き下ろした中編まで、四つの物語からなる作品集です。「動物園のエンジン」―デビュー長編『オーデュボンの祈り』のような不思議な雰囲気のある短編。「サクリファイス」―あの黒澤がスピンオフで、この中編では主人公として登場。ある寒村で昔から伝わる“こもり様”の風習を、伝奇ミステリー風の道具にして、“本格パズラー”っぽい物語に仕上げています。「フィッシュストーリー」―表題作。私は本書でこの短編が一番好きです。ふとした偶然(!?)が、40数年を隔てたところで意外な影響を及ぼす物語なんて、いかにも伊坂幸太郎らしい。「ポテチ」―本書のための書き下ろし中編。黒澤が今度は脇役で登場する。書下ろしらしく、随所に仕掛けられた伏線を、ラストでいかにも“伊坂ワールド”らしく収斂させる手腕はさすがです。今回収録の作品はいずれも独立した話で、書かれた時期も、テイストもまちまちなので、一冊を通して楽しむということはできなかったが、それでも、とりわけ後半の2作品は、ファンとしてじゅうぶん“伊坂幸太郎の世界”を堪能することができました。

〜『フィッシュストーリー』、伊坂幸太郎〜
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2010年04月10日

『アヒルと鴨のコインロッカー』(☆☆☆☆:小説おすすめ度)

『アヒルと鴨のコインロッカー』(アヒルとかものコインロッカー)は、伊坂幸太郎の小説。伊坂幸太郎の5本目の長編。2003年11月、東京創元社の叢書ミステリ・フロンティアの第1回配本作品として刊行。2006年12月、創元推理文庫に収録された。第25回吉川英治文学新人賞受賞作。

<あらすじ>
椎名という大学生の現在の物語と琴美という女性の2年前の物語が同時に描かれる、カットバック形式の小説。
椎名は引っ越し先のアパートの隣人(河崎と名乗る)に「本屋で広辞苑を盗まないか」と誘われる。断りきれなかった椎名は本屋から広辞苑を奪う手伝いをさせられてしまう。その計画の後、河崎やペットショップの店長をしている麗子から2年前の話を聞かされることになる。
2年前の物語は琴美、その恋人であるキンレィ・ドルジ(ブータン人)、河崎、麗子を中心に展開する。世間で多発しているペット惨殺事件の犯人たちに出会ったことにより、琴美が目を付けられてしまう。琴美は何度も襲われるが、ドルジや河崎に助けられ、逆に犯人たちを捕まえようとする。
2年前の事件と現在の本屋襲撃が次第につながっていく。

<感想>
昔と今が錯綜している構成が活きています。言葉がリンクしてハッとさせられたり、ちょっとしたエピソードで人物をより際立たせたり。伊坂幸太郎はキャラ作りが上手だなと毎回関心します。濃く思い浮かんで、それだけでも惹き付けれます。それと、気になるのは言葉。「一緒に本屋を襲わないか」。目的は広辞苑。とか。「神様を閉じ込めに行かないか」。突拍子も無いけれど、ちゃんと収束して意味あるものに形を変える。 その持って行き方が私は好きです。

〜『アヒルと鴨のコインロッカー』、伊坂幸太郎〜
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2010年03月18日

『オーデュボンの祈り』(☆☆☆☆☆:小説おすすめ度)

『オーデュボンの祈り』(オーデュボンのいのり a prayer)は、伊坂幸太郎による推理小説。作者のデビュー作であり2000年に新潮社から出版され、同年の第5回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞した。

<あらすじ>
主人公、伊藤のコンビニ強盗から物語は始まる。伊藤は気付くと、見知らぬ島にたどり着いていた。その島は荻島といって、江戸時代以来外界から鎖国をしているという。島には、嘘しか言わない画家や、島の法律として殺人を許された男、未来の見える、人語を操る案山子などがいた。
しかし伊藤が来た翌日、案山子はバラバラにされ、頭を持ち去られて死んでいた。伊藤は「未来がわかる案山子はなぜ自分の死を阻止できなかったか」という疑問を持つ。 住民から聞いた「この島には、大切なものが最初から欠けている」という謎の言い伝え。 案山子の死と言い伝いの真相を追う伊藤の数日間を描く。

<感想>
デビュー作というのは、いろいろな意味できわめて興味深いものです。伊坂幸太郎の作品を読んでみようと思ったら、まずは「オーデュボンの祈り」から読むことをお勧めします。伊坂幸太郎の作品群は、相互にリンクしています。たとえば、Aの作品にちらりと出てきた脇役的登場人物が、Bの作品では、主要な登場人物の一人として登場したり、Aの作品の「事件」が、Cの作品で話題にのぼったりするのです。伊坂幸太郎自身が、「このミステリがすごい!2004年版」のインタビュー記事で、「実際、今までの短編と長編はすべてつながっているんですよ」と語っています。つまり、刊行順に読まないと、その仕掛けに「にやり」とできません。これは、読者サービスのようにも思えますが、作家にとっては、一つの作品世界の奥行きを広げる手法にもなり、また「作品を最初から読ませる」戦略ともなります。是非この作品を機に伊坂幸太郎作品を全て読んでみては。

〜『オーデュボンの祈り』、伊坂幸太郎〜
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2010年02月08日

『グラスホッパー』(☆☆☆☆:小説おすすめ度)

『グラスホッパー』 (GRASSHOPPER) は、伊坂幸太郎による日本の小説。著者自身が「今まで書いた小説のなかで一番達成感があった」と語る作品。

<あらすじ>
妻を殺した男に復讐しようと、職を辞し、男の父親が経営する会社に契約社員として入った鈴木。ところが、自分の目の前でその男が車に轢かれる。「押し屋」と呼ばれる殺し屋の仕業だった。
命じられるままに押し屋を追った鈴木だが、押し屋に温かい家庭があることを知り、その居場所を上司に報告できなくなってしまう。
一方、自殺専門の殺し屋・鯨は過去を清算するために、ナイフ使いの殺し屋・蝉は手柄を立てるために、押し屋を探していた。

<感想>
話の内容は、自分の妻を殺した相手に復讐するつもりが横取りされてしまった男、鈴木を主人格として、その人を含む3人の男の視点で書かれています。語り手が複数いると話が混ざりやすいのですが、語り手が変わるところに語り手の名前の判子をモチーフにしたマークがあったので、切り替えがスムーズに出来ました。また、その3人に関わる登場人物も他の小説に比べて多かったのですが、その一人一人のキャラクターがしっかりしていて個性豊かだったので楽しかったです。
伊坂幸太郎ならではの入り組んだ人間関係や登場人物の表現、綿密に練りこまれたヒントはそのままです。「あの登場人物はそういう役目だったのか!」など、読み進める毎に滲み出てくる全体像に先へ先へと止まらなくなる魅力がありました。暴力シーンなど少しだけグロテスクな表現がある部分もありましたが、上手くカバーというかそれを上回るものが別にあるので、読後はやはり穏やかな気分で終わることができました。

〜『グラスホッパー』、伊坂幸太郎〜
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2010年01月13日

『ラッシュライフ』(☆☆☆☆☆:小説おすすめ度)

『ラッシュライフ』(a life)は伊坂幸太郎による日本の小説で、2002年7月30日に新潮ミステリー倶楽部、2005年5月1日に新潮文庫で発行された。伊坂幸太郎が注目されるきっかけとなる作品である。

<あらすじ>
若い女性画家。泥棒を生業とする男。父親を自殺で失い神に憧れる青年。不倫相手との再婚を企むカウンセラー。職を失い途方に暮れる男。いくつものストーリーが絡み合い、物語は意外な展開を迎えてゆく。

<感想>
自分に楯突く者を絶対に許さない、傲慢で拝金主義者の画商。独特のこだわりをもつ泥棒の黒澤。リストラに遭い、野良犬と仙台の町をさまよう豊田。お互いの配偶者の殺人を画策するサッカー選手の青山とカウンセラーの京子。新興宗教の教祖の解体に立ち会わされる河原崎。
これらの5組にまつわる話が時間軸を上手に操られ、微妙にリンクしながら最後に騙し絵のピースのようにぴたりとはまる。初読の際にはこの見事さに感動すら覚え、各章に隠された時間についてヒントをメモしながら再読し、再度感動した次第です。未読の方は、是非、この「時間」ということに注意しながら読んで頂きたいと思います。最後の驚きが倍増(は大げさかもしれませんが)するはずです。作品中の「展望台」や「好きな日本語を書かせる外国人女性」など、一見意味の無いようなエピソードの使い方もうまく、また作者独特の鮮烈で暖かみのある文体が完成度を高めていることは言うまでもありません。是非おすすめの一冊です。

〜『ラッシュライフ』、伊坂幸太郎〜
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『魔王』(☆☆☆☆:小説おすすめ度)

『魔王』(まおう)は、伊坂幸太郎による日本の小説。著者自身が「自分の読んだことのない小説が読みたい。そんな気持ちで書きました」と語る作品。

<あらすじ>
会社員の安藤は弟の潤也と二人で暮らしていた。自分が念じれば、それを相手が必ず口に出すことに偶然気がついた安藤は、その能力を携えて、一人の男に近づいていった。五年後の潤也の姿を描いた「呼吸」とともに綴られる、何気ない日常生活に流されることの危うさ。新たなる小説の可能性を追求した物語。

<感想>
伊坂幸太郎作品は、スト−リ−自体も良いのは当たり前ですが、作中の台詞回しが絶品です。この作品も、理屈っぽいともいえる会話部分に、かなり楽しませてもらいました。特に新聞紙を折ると…の部分は私達の一般会話のネタにも十分使えるのでおいしい。ファシズムの始まりって、こんなものなんだろうな?という説得力のある展開。いつもながらの個性的な登場人物。伊坂幸太郎カラ−満載で、彼の作品以外の何者でもないのですが、いかんせん消化不良の感は否めないように思いました。盛り上がりにももう一つ欠けているような。個人的には収録2話分の分量で”魔王”を書いて欲しかったです。

〜『魔王』、伊坂幸太郎〜
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2009年12月31日

伊坂幸太郎

伊坂幸太郎

伊坂幸太郎(いさかこうたろう、1971年5月25日 - )は、日本の小説家。宮城県仙台市在住。

千葉県松戸市出身。千葉県立小金高等学校、東北大学法学部卒業後、システムエンジニアとして働くかたわら文学賞に応募、2000年『オーデュボンの祈り』で新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しデビュー。その後作家専業となる。
2002年の『ラッシュライフ』で評論家に注目され始め、直木賞候補になった2003年の『重力ピエロ』で一般読者に広く認知されるようになった。それに続く『アヒルと鴨のコインロッカー』が第25回吉川英治文学新人賞を受賞した。
ミステリ作家と紹介されることもあるが、その枠に留まらずエンターテインメント性豊かな作品を発表し若い世代を中心に支持を集めている。
2003年『重力ピエロ』、2004年『チルドレン』『グラスホッパー』、2005年『死神の精度』、2006年『砂漠』で直木賞候補となる。また本屋大賞において唯一第1回から第4回まですべてにノミネートされ、2008年の第5回に『ゴールデンスランバー』で同賞を受賞した。同作品で第21回山本周五郎賞も受賞した。なお同作で直木賞の選考対象となることを「執筆に専念する」ことを理由に辞退している。
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2009年11月17日

『死神の精度』(☆☆☆☆☆:小説おすすめ度)

『死神の精度』(しにがみのせいど、ACCURACY OF DEATH)は、伊坂幸太郎による日本の小説。

<あらすじ>
7日間の調査の後に対象者の死を見定める、クールで少しずれている死神を取り巻く6つの人生の物語。以下の6編から成る短編集である。
[死神の精度](『オール讀物』2003年12月号)
[死神と藤田](『オール讀物』2004年4月号)
[吹雪に死神](『オール讀物』2004年8月号)
[恋愛で死神](『オール讀物』2004年11月号)
[旅路を死神](『別冊文藝春秋』第255号・2005年1月)
[死神対老女](『オール讀物』2005年4月号)

<感想>
優れた短編小説集の見本のような作品です。主人公は、死神。その死神はこれから死を向かえる人間の資格調査のため7人の人間に出会う。そこには、シンデレラ・スト−リ−、ロ−ド・ノベル、本格密室推理など、バラエティ-に富んだ展開が待っています。さらに、短編らしく意外性がありながら余韻を残した結末が、伊坂幸太郎のセンスを物語っています。そして、最終章では、はっとする展開やすがすがしいばかりの結末が。キャラ作りの天才である伊坂幸太郎の真骨頂である、主人公のディテ−ルも申し分なく、音楽好きな死神が少し抜けたところがありながらも、作品の雰囲気をかもし出してくれています。映画が楽しみな一冊でした。

〜『死神の精度』、伊坂幸太郎〜
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2009年10月31日

『陽気なギャングの日常と襲撃』(☆☆☆☆:小説おすすめ度)

『陽気なギャングの日常と襲撃』は伊坂幸太郎の小説。

<あらすじ>
嘘を見抜く名人は刃物男騒動に、演説の達人は「幻の女」探し、精確な体内時計を持つ女は謎の招待券の真意を追う。そして天才スリは殴打される中年男に遭遇―天才強盗四人組が巻き込まれた四つの奇妙な事件。しかも、華麗な銀行襲撃の裏に「社長令嬢誘拐」がなぜか連鎖する。知的で小粋で贅沢な軽快サスペンス。

<感想>
『陽気なギャングが地球を回す』の後日談。マンガ的なキャラクターと日本人作家離れしたウィットに富んだセリフ回しは健在。犯罪者集団としてはルパン三世に比肩するキャラの立ちようと言いすぎか。もっとも、別々の短編を並べてから、そこからつながるように長編に仕上げたようで前作に比べると全体の構成はゆるい印象でした。その分、肩の力を抜いて楽しめますが、一部のキャラには見せ場が少なかったような気もしました。

〜『陽気なギャングの日常と襲撃』、伊坂幸太郎〜
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2009年10月21日

『陽気なギャングが地球を回す』(☆☆☆☆☆:小説おすすめ度)

『陽気なギャングが地球を回す』(ようきなギャングがちきゅうをまわす)は、伊坂幸太郎のサスペンス小説。続編として『陽気なギャングの日常と襲撃』が2006年5月に刊行されている。伊坂幸太郎独特の文体とスラップスティックコメディの内容が受け、新書版(祥伝社ノン・ノベル)は10万部以上を売り上げ、文庫版(祥伝社文庫)もベストセラーとなった。その結果、伊坂の名はミステリファンのみならず一般にまで知れ渡った。

<あらすじ>
ロマンはどこだ!?人間嘘発見機、演説の達人、天才スリ、そして正確な体内時計を持つ女。この4人の天才達は「人を傷付けない」ことをポリシーとする銀行強盗だった。その戦歴は百発百中…のはずが、思わぬところで誤算が生じ、せっかくの「売り上げ」を逃走中の現金輸送車強盗犯に横取りされてしまう事に。そこで彼等は奪還に動こうとする。

<感想>
銀行強盗4人組のお話です。ですが、人を傷つけたりするなどということはありません。計画的に、そして美しく去っていく愉快な人たちです。4人それぞれが特技を持ち合わせているわけですが、中でも『おしゃべりな男』の個性は抜けておもしろいと思います。ことあるたびに彼は口を出し、仲間たちとも言い合うのですが、すべてが理屈っぽく、くだらなく、うるさいのですが、どこか憎めません。そして、それらを適当に交わし茶化す仲間たち。これらのやり取りはコメディのような雰囲気さえあります。シリアスな部分もあったりしますが、全体的にはユーモラス。テンポもいいので飽きることなく読むことができると思います。

〜『陽気なギャングが地球を回す』、伊坂幸太郎〜
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2009年10月02日

『ゴールデンスランバー』(☆☆☆☆☆:小説おすすめ度)

『ゴールデンスランバー』(A MEMORY) は伊坂幸太郎による日本の小説作品。2008年本屋大賞受賞、第21回山本周五郎賞受賞作品。著者にとっては2年ぶりの書き下ろし作品である。作品は、全部で五部から構成されており、第四部「事件」が作品の大半を占めている。序盤から多くの伏線がはられ、魅力的な登場人物が数多く登場し、今までの著者の作品のエッセンスが数多く含まれていることから、現時点で著者の集大成と評されている。この作品では、主人公の昔の彼女や、大学のサークル仲間といった周りの人たちとの絆が大きな役割を果たしている。これには、人間が生活する上で一番重要なのは、人との繋がりや、信頼なのではないかという作者の考えが込められている。

<あらすじ>
首相公選制が存在する現代。仙台市では金田首相の凱旋パレードが盛大に行われていた。それと時を同じくして、青柳雅春は、数年ぶりに旧友の森田森吾と再会していた。森田の様子がおかしいことを訝しむ青柳に、森田は恐るべきことを告げる。あまりにも巨大すぎる陰謀から、青柳は逃げ切ることはできるのか。

<感想>
伊坂幸太郎の小説の凄さは構成力だと思います。点と点がいつしか線となり、大きなうねりを持って迫ってくる。そんな文章力が、一番の魅力だと思っていました。でも、今回の作品は、そんなことがちっぽけになるくらいに愛に満ちあふれていました。くだらない時間を一緒に過ごした学生時代の友人、そして一度別れてしまえば最も遠い存在になってしまう“元カノ”が登場するわけですが、時を経てもなお彼らの間に流れる“信頼感”は、目の前のとんでもない状況を凌駕するくらいに深い。自分の軸の所在をきちんとわかっているというか、自分の中の優先順位にきちんとケリをつけられているというか、そういう潔さに胸が熱くなります。変わっていっても同じように大事なもの、その深さに胸を打たれました。話の軸は首相暗殺事件なのに、変わっていくことや、過ぎてしまった時間を称えるような優しさにあふれている大傑作です。

〜『ゴールデンスランバー』、伊坂幸太郎〜
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2009年07月26日

『終末のフール』(☆☆☆☆:小説おすすめ度)

『終末のフール』は2009年6月に出版された伊坂幸太郎による小説である。

<あらすじ>
八年後に小惑星が衝突し、地球は滅亡する。そう予告されてから五年が過ぎた頃。当初は絶望からパニックに陥った世界も、いまや平穏な小康状態にある。仙台北部の団地「ヒルズタウン」の住民たちも同様だった。彼らは余命三年という時間の中で人生を見つめ直す。家族の再生、新しい生命への希望、過去の恩讐。はたして終末を前にした人間にとっての幸福とは?今日を生きることの意味を知る物語。

<感想>
どこか人を喰ったような、浮遊感のあるエキセントリックな伊坂幸太郎の世界。そんな伊坂テイストを残しながらも、本書ではミステリーではなく、SFちっくな極限状態におかれた人間群像を描いています。「8年後に小惑星が落ちてきて地球が滅亡する」と発表されてから5年が経った。恐怖心が巻き起こす、暴動、殺人、放火、強盗、デマ、そしてパニック的な逃避行動…。社会に秩序がなくなり、世界中は大混乱に陥っていたが、ここへきて“5年ぶりに祭りが終わったかのように町に落ち着きが戻り”(「鋼鉄のウール」)、世間は危うい均衡が保たれていた。舞台は伊坂小説のフランチャイズ、仙台。本書は、その北部の丘を造成して作られた団地「ヒルズタウン」に建つ、築20年のとあるマンションの、“世界の終わり”騒動の後も、今なお生き残って住んでいる人たちが、入れ替わるように一人称で語る8話の連作短編集です。彼らはいずれも今回のパニックか、あるいはもっと以前に何らかの理由で家族を亡くしています。心の中にあるのは絶望です。しかし、本書の凄いところは、ただ単に人々の絶望やパニックを描いているのではなく、その向こうに「生きる道のある限り、あと3年の命を精一杯生きよう」という前向きの姿勢を導き出しているところです。8つの物語はいずれも主人公の前向きな「生きる決意」で終わっています。本書は、極限状態に置かれてもなお生き抜こうとする人間の強さを静かに訴えた傑作だと思います。私は大事な人と同時に死ねるならばそれはそれで幸せなのではないかと思います。大事な人に残されるわけでもないし、大事な人を残すわけでもないのですから。

〜『終末のフール』、伊坂幸太郎〜
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2009年07月13日

『重力ピエロ』(☆☆☆☆☆:小説おすすめ度)

『重力ピエロ』(じゅうりょくピエロ、A PIERROT)は伊坂幸太郎による日本の小説作品、およびそれを原作とした映画作品。 第129回直木賞候補作品、第57回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門候補作品、第1回本屋大賞ノミネート作品、2004年版このミステリーがすごい!第3位。

<あらすじ>
仙台の街で起こる連続放火事件。放火現場の近くには必ず奇妙なグラフィティアートが描かれていた。過去に辛い記憶を抱える泉水と春の二人の兄弟は、事件に興味を持ち謎解きに乗り出す。グラフィティアートと遺伝子のルールの奇妙なリンク。謎を解き明かしたとき、その先に見えてくるものとは。

<感想>
推理小説と言い切るのはちょっと違い、でも家族愛の話と決めてしまうのもちょっと違う。登場人物たちの交わす会話が独特のテンポでちょうど良いです。彼らの背負うものが切なくて、でも淡々と進められていく物語に次第にのめり込んで行きます。途中でなんとなく結論が分かってしまいますが、それはあまり関係ないです。犯人が誰であるかを当てることがこの小説のメインテーマではないですから。そして、終盤で、すべてのからくりがわかってからのドキドキは、それまでのものよりも大きく、 読み終わるのがもったいないと初めて感じました。作品中の登場人物が発する言葉はとても心に染み渡るものが多いのでそこに注目して、読んでみてみるのもいいと思います。また、登場人物一人一人がとても鮮やかに描かれています。どの人物もある意味突飛で個性が強いのですが、それぞれに惚れこんでしまいます。それ故に、ラストは切なく、愛おしく、まだずっと彼らを見ていたくなるのです。残酷でありながらも、この上なく神聖で、愛にあふれている、不思議な魅力いっぱいの小説でした。

〜『重力ピエロ』、伊坂幸太郎〜
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