2011年06月20日

『プリンセス・トヨトミ』(☆☆☆☆☆:小説おすすめ度)

『プリンセス・トヨトミ』(Princess Toyotomi) とは、日本の作家である万城目学の小説。万城目学初の長編作品。別冊文藝春秋にて2008年1月号から2009年1月号まで連載、2009年3月に文藝春秋より刊行された。第141回直木賞候補作。四百年にわたりあるものを守り続けてきた大阪に住む男たちと、それを知らずに大阪にやってきた会計検査院との攻防を軸に、親子の絆を描いたパラレルワールド的な作品。同じく万城目原作の「鹿男あをによし」とは一部世界観を共有しており、同作品に登場した大阪女学館剣道部顧問の南場勇三がわずかだが出演する。

<あらすじ>
5月31日の木曜日、午後4時。突如として大阪府で一切の営業活動、商業活動がいっせいに停止した。物語はそこからさかのぼること10日前、大阪に実地検査のため足を踏み入れた会計検査院の調査官3人と、地元の中学校に通う2人の少年少女。一見何のかかわりもない彼らの行動とともに描かれる。会計検査院第六局所属の松平ら3人は実地検査のため大阪を訪れる。そのリストの中に入っていたのは謎の団体「社団法人OJO」。しかし期間中彼らはOJOの検査をできないまま一旦帰京する。空堀中学校に通う大輔と茶子は幼馴染。長い間女の子になりたいと思っていた大輔はセーラー服姿で登校することを夢に見、実行に移す。しかし、彼を待っていたのは壮絶ないじめであった。週が明けて火曜日、ある理由から大阪に残っていた松平はOJOの実地検査ができることを知り、現地へと向かう。一方の大輔はその日、担任教師に早退を命じられ、彼の父とともにある場所へと行くことになる。松平と大輔、二人が見たものは地下に眠るもう1つの国「大阪国」であり、大輔は父が大阪国の総理大臣であることを告げられる。「大阪国」は35年間で国から175億円もの補助金を受けていたが、肝心なことを国との条約を盾に語らない。松平はこの「大阪国」の不正を明るみにするために対決することに。そんな中、大輔へのいじめがエスカレートし、茶子はいじめた相手への襲撃を決行するが、そのことが思いもよらぬ事態へと発展する。それぞれの思惑と誤解が交錯したとき、長く閉ざされていた歴史の扉が開かれる。

<感想>
メインは「会計検査院から検査に派遣された三人対大阪」という構図で話は進んでいくのですが、中盤辺りから、まさに荒唐無稽、ややファンタジーや妄想の域に入るほど、話は明後日の方向に向かっていきます。しかし、それも作者の歴史と大阪人気質に関する造詣の深さでなんとかカバーされ、骨のある話になっていると思います。特に面白いのはそれぞれの登場人物の名前でしょう。東京(つまり東)から派遣された三人がそれぞれ松平、旭(これはファーストネームですが)、鳥居、大阪(つまり西)に住む人々の名前が、真田、橋場、島と、戦国時代後期の歴史に詳しい方なら、名前だけで登場人物の大体の立ち位置がわかるような構造になっています。話の内容的にも、歴史についてより詳しい方が、ニヤリとできる箇所が多いかもしれません。また、荒唐無稽な話でありながらも、根底のテーマはしっかりとしたものを持っていて、ただ作者の妄想を書いただけの絵空事に留まらない、面白い小説でした。

〜『プリンセス・トヨトミ』、万城目学〜
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2010年01月17日

万城目学

万城目学

万城目学(まきめまなぶ、本名同じ、1976年2月27日 - )は日本の小説家。大阪府出身、東京都在住。京都大学法学部卒。

清風南海高等学校卒業後、1浪ののち京都大学法学部に入学。お笑い芸人のロザン・宇治原史規は大学の同級生にあたり、万城目は一方的に宇治原のことを知っていたそうである。また面識は無いものの法学部の1学年上に作家の平野啓一郎がいた。化学繊維会社への就職・退社を経て、2006年に第4回ボイルドエッグズ新人賞を受賞した『鴨川ホルモー』でデビュー。同書は「本の雑誌」などの書評誌で絶賛され、「2007年本屋大賞」では6位になるなど注目された。続く第2作『鹿男あをによし』は第137回直木三十五賞候補となる。2009年、『プリンセス・トヨトミ』で第141回直木賞候補。2009年度咲くやこの花賞受賞。
2008年「鹿男あをによし」が玉木宏主演でドラマ化された。また、「鴨川ホルモー」が2009年に映画化、舞台化され、前者は山田孝之主演で4月18日公開、後者は石田卓也主演。
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2009年07月06日

『鴨川ホルモー』(☆☆☆☆☆:小説おすすめ度)

『鴨川ホルモー』(かもがわホルモー、KAMOGAWA HORUMO)は、万城目学の青春ファンタジー小説。

<あらすじ>
二浪して京都大学への入学を果たした新入生・安倍は、葵祭のエキストラのアルバイトの帰り、やはり京都大学の新入生である高村と偶然に知り合い、帰路を共にする。その途上、二人は京都大学三回生のスガ氏から「京大青竜会」というサークルの勧誘を受け、新歓コンパに誘われる。安倍は、京大青竜会へ入会するつもりなどなく、ただ新歓コンパにだけ参加するつもりで会場へ向かった。しかし安倍は、その席で早良京子という女性に一目惚れし、彼女に近づきたい一心で入会してしまう。
当初はただのリクリエーションサークルと思われた青竜会だったが、やがて安倍たちは、自分達が京都を舞台に鬼や式神を使って争う謎の競技「ホルモー」で戦うために集められたことを知らされる。半信半疑の安倍たちであったが、吉田神社での儀式を終え、自らの目で「オニ」たちを見るに至り、否応なくホルモーの世界に引き込まれることとなる。
安倍、高村、早良、芦屋、楠木、三好兄弟、松永、坂上、紀野の10名からなる第500代目京大青竜会は、ホルモーの練習を重ね、初戦に臨む。オニたちを巧みに使役する芦屋の活躍で圧倒的優位に戦いを進めた京大青竜会は勝利を確信したが、高村の失策により思わぬ敗北を喫してしまう。このとき、使役するオニが全滅した高村は、断末魔の叫び声を挙げる。京大青竜会の面々は、ここで初めてホルモーの恐ろしさを知ることとなる。
この敗戦直後、安倍と芦屋との不和が表面化し、敗戦の原因となった高村は、しばらく姿を見せなくなってしまった。
しばらくして高村は、チョンマゲ頭で安倍の前に現れる。そしてその高村の口から、安倍が恋心を抱く早良は、よりにもよって安倍が忌み嫌う芦屋と交際していることを知らされる。心に傷を負った安倍は、ホルモーの練習を拒絶するようになった。
しかし、ホルモーを途中で投げ出すことができないことを知った安倍は、芦屋とは別のチームを組んでホルモーを続行する手立てを模索する。そして安倍は、スガ氏から、各校のチームを2分して全8チームとする特別ルール「17条ホルモー」の存在を聞き出し、この17条ホルモー実現のために奔走する。
安倍は、高村、楠木、三好兄弟の協力を得て17条ホルモーを実現し、「京大青竜会ブルース」を結成したが、京大青竜会ブルースのメンバーたちは、黒い「オニ」たちが何者かを虐殺するという正視に耐えない光景を毎夜目撃させられるという恐怖に見舞われることになってしまった。これを解消するためには優勝するしかない。
安倍たちは、楠木の天才的な采配によって勝ち進み、決勝戦は、芦屋率いる「京大青竜会神撰組」との対戦となった。京大青竜会ブルースは、安倍と楠木とが不和に陥り、楠木のメガネが壊れて十分な指揮を採れなくなるという2つのトラブルに見舞われるも善戦し、安倍たちが黒いオニたちを見ることはなくなった。
そして、三回生となった安倍たちの後日談が語られ、物語は終わる。

<感想>
京大出身の作者による、京大生を主人公とする、京都が舞台の物語。葵祭のバイトに始まり、祇園祭を経て、気づけば吉田神社で奉納舞。十人の大学生が集められて挑まされるのは、大学対抗のある競技。対戦するは、京大青竜会、京産大玄武組、立命館白虎隊、龍大フェニックスの4チーム。野球でもなければ、ラグビーでもない。さて、ホルモーとはなんぞや?ホルモーがなにゆえ始まり、続くのか?主人公達は謎の起源に迫るのでもなく、謎の解体を図るのでもない。巻き込まれて、盛り上がる。訳がわからなくても、わからないままに、続いていくもの。ホルモー自体が一つのお祭りのようなもの。伝統は続けることに意義がある、的な。奇想天外な設定に、片思いの繊細な男心の描写、リアルな生活感。妙な迫力と勢いにのまれて一気に読んでしまいました。深くは考えないで、世界を楽しむのがお勧め。学生気分に戻りつつ、笑いながら楽しんだ末、読後に颯爽と香るは、春の青々しい楠の匂いでした。

〜『鴨川ホルモー』、万城目学〜
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2009年07月04日

『鹿男あをによし』(☆☆☆☆:小説おすすめ度)

『鹿男あをによし』(しかおとこあをによし)は、万城目学作のファンタジー小説。

<あらすじ>
「おれ」は大学の教授に勧められ、2学期の間限定で奈良の女子高の教師になる。しかし、生徒にからかわれたり、無視されたりとコミュニケーションが取れず、途方に暮れる。そうして迎えた10月。奈良公園の大仏殿にいた「おれ」の前に突如鹿が現れ、人間の言葉で話しかけてきたのだ。実はその鹿は1800年前から人間を守りつづけてきた存在で、60年に1度行われる「鎮めの儀式」で用いる目を運ぶ役(「運び番」)に「おれ」を任命する。目は人間界で「サンカク」と呼ばれ、狐の「使い番」を任せられた女性から渡されると話す鹿であったが、「おれ」は「使い番」に気づかず、挙句に違うものを渡された。鹿は「目を鼠に奪われた」と言い、わけが分からない「おれ」に印をつけ、「おれ」の顔を鹿にしてしまう。そして鹿は「目を取り戻さないと日本が滅びる」と警告するのであった。ちょうど同じころ、東では火山性微動が続き、富士山が噴火する兆候にあった。
一方、勤務する高校では年に一度のスポーツイベントである姉妹校との交流戦「大和杯(やまとはい)」が行われようとしていた。そして「おれ」はその優勝プレートが「サンカク」と呼ばれていることを聞く。剣道部の顧問になった「おれ」は、そのプレートこそ、鹿が言っていた目であると考え、人類を危機から救うために目を取り戻そうと優勝を目指すのだが…。

<感想>
ファンタジーなんだけれども身近に感じるストーリーです。今、地球は我々人間の手によって、次々と環境破壊が進んでいます。“地球の温暖化”や“オゾン層の破壊”、“水質汚濁”は日々深刻度を増しています。世界各地で報告される異常気象による水害や干ばつ、地震や雷、竜巻などの自然災害による被害も後を絶ちません。こうした現象は、“自然への感謝”を忘れた身勝手な人間たちに対する“神々の怒り”だと言う人もいます。人間は便利な生活に慣れすぎてしまい、神々の存在や先人たちの思い、動物や植物とのバランスのとれた生活などを忘れかけています。それは、決して忘れてはならない大切な大切な思いだったのに…。これは、限りある地球の自然を守るため、愚かな人間たちのため、愛する人のため、“神々の使い”である動物たちとある儀式のため“神に選ばれし普通の人間たち”が古の都に隣接する学校を舞台に繰り広げる1800年もの歴史を越えた大真面目で大爆笑のいまだかつてない壮大な物語です。選ばれし人間たちの使命とは?使命を果たすことができなかった人間に付けられる“印”とは?かつて太古の卑弥呼の時代から伝わる儀式とは?感謝を忘れた人間たちに代わって、動物たちが伝承する先人たちの思いとは?この物語を通して、自分さえ良ければ、という身勝手な思いが通用しないことを知り、私たちが忘れかけていた大切なものを、この小説が思い出させてくれるはずです。

〜『鹿男あをによし』、万城目学〜
posted by 推理小説家 at 17:50 | Comment(0) | TrackBack(0) | 万城目学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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