2011年03月29日

『ジーン・ワルツ』(☆☆☆☆:小説おすすめ度)

『ジーン・ワルツ』は新潮社から刊行された海堂尊の長編小説。産婦人科学や代理母出産を題材に、産婦人科女医の曾根崎理恵の活動と代理母出産疑惑が絡んだミステリーを描く。本作は初の東京を舞台とした作品でもあり、著者の作品で存在が確認された「帝華大学」も登場するが、世界観を共有している桜宮市を舞台とした他作品とのリンクしている部分もある。「小説新潮」で2007年6月号から12月号に掛けて連載され、2008年に単行本化。本作品は、2010年度の山本周五郎賞の候補作となる。本作の裏編として2010年に『マドンナ・ヴェルデ』が刊行された。本作では作中の背景で起こった出来事として北海道の架空の都市「極北市」を舞台に福島県立大野病院産科医逮捕事件を模した事件が描かれている。

<あらすじ>
北海道極北市で産婦人科医である三枝久広が一人の妊婦の術中死により逮捕された事件が産婦人科医療に大きな衝撃を与えてから半年後、帝華大学医学部産婦人科学教室の女医・曾根崎理恵は発生学講師の傍ら、週一回非常勤の医師として産婦人科医院、マリアクリニックに勤務していた。三枝久広の母、茉莉亜が院長を務めるマリアクリニックは先の逮捕事件の煽り受けた上に、茉莉亜が末期の肺癌に侵された事により閉院が既定路線となり、理恵はその最後の患者である5人の妊婦達と関わっていく。
一方、理恵の同僚の准教授・清川吾郎は理恵が代理母出産に手を出したという不穏な噂を聞きつける。

<感想>
現代の産婦人科医師不足の抱える問題を、医師と言う立場から描いた意欲作です。五体満足な子供が生まれてくることは、生物発生学の見地からすると奇跡にひとしいという、事実。「チームバチスタの奇跡」の一連のサスペンスとは全く異なる意図を持って書かれた作品と思えました。不妊治療を試み、代理出産をも手がける医師、曽根崎理恵。その信念に揺るぎはない。しかし、倫理的視点に立ったとき、その行為は認められるものなのか賛否は分かれることでしょう。作者はあくまでも客観的立場から問題を投げかけていますが、それ以前にお産のトラブルによって、「医師」をも追われる産婦人科医の現状は考えなくてはなりません。人気作家の作品ゆえに、多くの人々の目に触れ、産婦人科医療を考えるきっかけになればと思わずにいられません。小説と言う形をとってはいますが、非常にメッセージ性の強い作品でした。

〜『ジーン・ワルツ』、海堂尊〜
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海堂尊

海堂尊

海堂尊(かいどう たける、本名非公表、1961年 - )は日本の作家、医師、医学博士。外科医を経て病理専門医。2010年3月、病理学会員が自身の抗議を坐視したため、17年間続けた病理医をやめる。現在、独立行政法人放射線医学総合研究所重粒子治療センター病院Ai画像診断推進室長。

2005年に『チーム・バチスタの崩壊(出版本名は『チーム・バチスタの栄光』)』で、第4回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞、2006年「週刊文春ミステリーベスト10」第3位。
新書『死因不明社会』で2008年度科学ジャーナリスト賞受賞。また小説『ブラックペアン1988』は2008年度、『マドンナ・ヴェルデ』は2010年度の山本周五郎賞の候補作、『ブレイズ・メス』は2011年度の吉川英治新人賞の候補作となる。
病理医として独立行政法人放射線医学総合研究所の重粒子医科学センター病院に勤務。 千葉大学医学部非常勤講師も務める。
医師としては、オートプシー・イメージング(Autopsy imaging、Ai、死亡時画像病理診断)の重要性と社会制度への導入を訴える。

現役の医師として、主に現代日本の医療問題をとりあげた小説をエンターテイメント性豊かな文体と豊かな人物造形で執筆している。メディカルエンターテイメント作家として活動する。全ての作品が東海地方の架空の地方都市である「桜宮市」を中心に舞台設定を共有する。それらの作品間リンクに伴い、別作品のキャラクターがクロスオーバーして度々登場し、各作品はそれぞれ血縁関係者や背景が関わっている。
単行本から文庫化の際には、読みやすさを重視して改訂し、「螺鈿迷宮」では約1割の減量化がされ、「イノセント・ゲリラの祝祭」では(同じ時系列、同じ主要登場人物だが)別作品である「東京都二十三区内外殺人事件」を内部に組み入れる形で再構成がなされている。
業界屈指の速筆として知られている。いつでもどこでもいつなんどきでも執筆できる。BGMに日本のポップスをエンドレスでかける。本人はひそかにテーマソングと呼んでいる。
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